職業リハビリテーションと地域福祉
| はじめに | |
| 当方は、二つの障害者能力開発施設をもち、大阪市内で5カ所の公共職業安定所に対応した障害者就労支援センターを立ち上げ、連合大阪・関西経営者協会・労働関係機関・職リハ関係者とともに作り上げた「大阪障害者雇用支援ネットワーク」をこの4月から特定非営利活動法人(NPO)とし、これまでの活動に加えて大阪府と協力して府内の各福祉圏域で地域就労支援センターの創設や市町に常設の雇用相談所を立ち上げようとしている。また、筆者は、全日本手をつなぐ育成会が労働省から委託している「知的障害者職業自立啓発事業」を毎年7ブロックで催し、「福祉・労働・商工・教育・施設・保護者・事業主」などによるネットワークが構築されることを願って「地域就労支援セミナー」を開催している。さらに急激に変節する福祉理念や諸制度に戸惑いながら、職員と分担しながら大学や介護福祉士の養成校などで「障害者福祉論」や「リハビリテーション論」を講ずる立場でもある。 日々、授産施設・通勤寮・小規模作業所や市町村障害者生活支援事業の当事者、地方自治体の関係者、福祉機器の開発を行うリハビリテーション工学関係者、地域療育等支援事業、ケアマネージメント体制整備推進事業、精神障害者の社会適応訓練事業などと頻繁に接触しているが、私の意図するところは、社会福祉の大枠に就労支援施策を取り込み、それを地域福祉のシステムとして具体化することにある。「厚生労働省」の誕生を契機として、障害者の就業に関する理念や制度を統合した新たなパラダイムが構築されるという期待感をこめてわれわれの今後の課題を探ることにする。 | |
| 1.省庁再編と地方分権 | |
| 1990年頃からわが国の経済環境が急激に悪化し、日本的システムや慣行では現実の社会変動や世界標準(グローバルスタンダード)に対応できないことが認識されるようになり、1996年に六大構造改革(行政改革・財政改革・社会保障改革・金融システム改革・経済構造改革・教育改革)が提案された。行政改革は、その一環として行われたもので、行政組織制度、地方制度、公務員制度などの改革として、1999年に1府22省庁から1府12省庁へと再編する「中央省庁等改革関連法」が制定され、2001年1月6日に施行され、厚生労働省が発足した。 医療・年金・社会福祉制度を長期的な展望のもとに見直し、改革を進める社会保障構造改革もこの流れに沿ったもので、少子高齢化に伴う福祉需要の多様化・増大化に対応するために「介護保険法(1997)」を制定し、「社会福祉構造改革(中間まとめ)(1998)」によって福祉サービスの再構築に関する論議を喚起して「社会福祉事業法」を「社会福祉法」に改正し、福祉サービス利用者の自己決定権の尊重や自立支援、地域福祉の確立などを掲げて「措置制度から契約制度へ」「権利としての福祉サービス」「施設経営の効率化と情報公開」「第三者によるサービス評価」「成年後見制度の創設」「小規模作業所の法定化」などを骨子とする新たな機軸が示された。このように、旧厚生省に連なる社会福祉の供給体制は、省庁再編と基礎構造改革という二つの改革に直面している。 一方、構造改革に先行した制度改革が「地方分権」にかかる施策で、その影響もまた無視できない。80〜90年代はわが国で市民参加型のまちづくり運動が盛んになり、また、全国規模で展開された中央集権的な施策が一定程度達成されたと実感された時期でもあった。東京一極集中ではなく地方文化の優先性や住民に一番身近な市町村が主権をもつべきだという「地方自治体の自己決定権」による地域社会の形成が唱えられるようになり、機関委任事務に象徴されるパターナリズム的な行財政システムの転換が求められるようになった。数次にわたる勧告を経て1999年には機関委任事務を大幅に制限した「地方分権一括法」が制定され、2000年4月に施行された。 同法が労働行政に与えた影響は顕著で、2000年4月から機関委任事務制度・地方事務官制度が廃止されて都道府県労働局が誕生し、障害者雇用施策を担ってきた部局や公共職業安定所が移管された。都道府県が講ずべき障害者雇用施策に関して一定の指針が示され、経済部・商工労働部といった部局に業務が移されたが、障害者雇用に関するノウハウをもつ地方自治体は少なく、地域住民に直結した就業支援施策を打ち出せないでいるところもある。 | |
| 2.社会福祉の視座と社会計画 | |
| 人びとの暮らしは、心身機能の変調・離職・家族の疾病や死亡などの個人的な変動、環境汚染・少子高齢化のような人口動静・経済情勢・自然災害などの社会的な変動に翻弄される。このような生活危機に直面した時に、それに対応した「社会資源がない・社会制度がない・社会制度が利用できない・制度が誤って運用されている・制度間に連携や脈絡がない」という社会環境下では住民の生命や社会生活が脅かされ、生活危機に陥る。その典型が5大悪ともいわれる貧困・病気・不就学・不衛生な環境・失業状態である。 それに対して、人間が基本的にもっている生命・自由・幸福を追求する権利として保障される基本的人権を絶対的な拠り所にしながら、さまざまな社会資源を<動員・調整・開発>して「生活危機」を取り除き、生活機能の維持・生活の崩壊の予防・生活機能の向上を目指す社会システムが「社会福祉(Social Welfare)」の機能で、それはまた社会を維持するための必要不可欠な装置でもある。ところが、社会福祉制度の利用は無限ではなく、その線引きをどこにするかについて、国民的最低(ナショナル・ミニマム)と市民的最適(シビル・ミニマム)との葛藤がつきまとう。しかし、現行の「社会福祉の機能」によっては解決されない生活危機を社会問題として認知し、社会計画(social planning)によって社会(環境)や個人の自成的な変動(そのままではある結果が自明な変動)に積極的に介入して現行のパラダイムを計画的に転換(計画的変動)しようとする機運が高まる。 心身機能に変調のある人に関する社会計画は、国際的には「完全参加と平等」を掲げた国際障害者年(1981)以来、「障害者に関する世界行動計画(1982)」「国連障害者の十年(1983〜1992)」「障害者の機会均等化に関する標準規則(1993)」があり、わが国では「障害者対策に関する長期計画(1982)」「障害者対策に関する新長期行動計画(1993)」「障害者プラン−ノーマライゼーション7か年戦略(1995年)」「市町村障害者計画策定指針(1995)」「社会福祉基礎構造改革」があり、さまざまなインパクトを与えてきた。 理念面では「ノーマライぜーション」から「万人のための社会」「インクルージョン」が唱えられ、障害概念も「impairment→disability→hadicap」という線型モデル・医学モデルから「多様性のある人間がもつ普通の部分(RI.1999)」あるいは「人の機能(functioning)の状態」とする新たな定義も生まれつつある。当然のことながら支援方法に関しても、医学あるいは専門分野が主導する「リハビリテーション」からサービス利用者(当事者)主体となり、直面する課題(社会問題)をさまざまな社会資源と結ぶことによって解決するケアマネージメント、支援内容も当事者主体の「自立生活運動(IL運動)」、当事者の自己決定や問題解決能力を高めるための「エンパワーメント」、あるいは、積極的に自分自身の権利主張をする「セルフアドボカシー」支援が重視されるようになった。 しかし、福祉や労働のフロントでは障害者福祉に関する理念面での進展と矢継ぎ早に進められていく構造改革とは整合性がなく、明確な将来展望を見いだせないでいるように思える。 | |
| 3.就業を巡る動き−厚生労働省への期待 | |
| 人が労働に従事する目的は、@生計の維持−衣食住の資を得るための手段、A役割の実現−社会的に期待される「職分」の遂行、B個性の発揮−個人の「天職」を自覚して行う活動、C自己実現−主体的な自己の確立、だとされる。古くから障害者も多くの国民と同等・同質の就業形態や労働条件での就業(メインストリーム)をめざして産業動向や経済環境の変化にも耐えうるサービス形態や支援システムを構築すべきだという議論がなされてきたが、わが国の就業支援施策は、厚生省が所管する施設福祉を中心とした「福祉的就労」と労働省が進めた企業・事業所での「雇用就労(一般雇用)」とに分かれてそれぞれに固有のシステムとして発展してきた。 その殻を打ち破ったのが「報告書:地域障害者雇用支援ネットワークの形成(労働省 1999.3.)」で、関係者は「厚生労働省」の誕生を見越したグランドデザインとして歓迎した。そこには、厚生省・労働省・文部省と錯綜する社会資源の調整、雇用側の負担感や不安感の払拭、既存の社会資源の有機的な連携などに言及し、問題解決に向けた施策の創設や地域の就業支援ネットワーク形成などが盛り込まれ、そこでの提言をもとに、「あっせん型障害者雇用支援支援センター」「障害者就業・生活支援の拠点づくりの試行的事業」「障害者に対する在宅就労支援事業」「障害者緊急雇用安定プロジェクト」など、かつてなかった画期的な施策が実行され、具体的な就業問題の解決手法として一石を投じた。 なかでも「あっせん型支援センター」は、身体障害者・知的障害者・精神障害者の就業危機に関するケアマネージメント機能を果たすための総合相談の窓口を開設し、地域を耕して社会資源をコーディネートする事業で、先行的に就業支援を実施してきた16地域の授産施設・通勤寮・職業能力開発施設で試行され、14地域で「就業生活支援施行事業」が実施されている。主たる施設(箱もの)を基盤としないために、職業指導については既存施設と提携するなど施設機能を活用しながら行われており、地域の保健福祉や職業リハビリテーション関係施設・関係機関と連携して「運営協議会」を設置することも義務づけられている。また、「就業生活支援事業」においては、厚生サイドから「生活支援ワーカー」が配置されて就職希望者や就業者に地域生活支援を提供するとともに、就業にかかる意識を養うことを目的として通勤寮などの宿泊施設に養護学校在校生を短期間受入れる「体験入寮制度」を実施している。これは、2001年1月に文部科学省が示した「21世紀の特殊教育の在り方について〜一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について〜(最終報告)」とも連動する。 2001年度には、授産施設の利用者が事業所内で授産活動を行い、終了後に公共職業安定所と連携しながら企業などでの就職を促進する「企業内授産事業」も制度化される。すでに実施している授産施設もあるが、厚生労働省の発足にともなう新規事業として期待したい。 | |
| 4.地域における就労支援 | |
| 都道府県や市町村では「障害者プラン」の策定も進んでおり、平成14年の最終年をにらんで中間見直しをしているところもある。「就業支援」に関しては、なおも「授産施設や小規模作業所の増設」が主流を占めてはいるが、大阪市では「障害者プラン」に基づいて就労支援センターを設置し、神奈川県・横浜市・川崎市・東京都・仙台市などでは福祉サイドの施策として就労支援センターを設置している。さらに、経済環境が厳しいと言われるなかで、連合大阪は、経営者団体や労働機関と連携しながら障害者の就労支援組織を主導しているが、地方分権でいう自律的な市民意識あるいは対案提案者としての役割を演じている。 | |
| 5.就労支援セミナーから | |
| 全日本手をつなぐ育成会は、1997年から労働省より「知的障害者職業自立啓発事業」を委託し、東京と大阪で開催する「就労支援セミナー=知的障害者就労支援実務者養成講座」と全国7ブロックで地域育成会の協力を得て各県単位で「地域職業自立啓発セミナー」を開催し、就労支援に関する冊子を作成して全国の関係者に配布してきた。特に重視している「地域セミナー」では、第一日目を「地域就労支援ネットワーク会議」と称して、開催地の育成会を通じて労働局・県労働関連部署(商工労働部など)・県障害者福祉担当部署・事業主(雇用主団体など)・労働組合・障害者職業センター・養護学校および養護学校長会・施設代表・福祉施設関係者(通勤寮・授産施設・小規模作業所など)・保護者・就労支援ネットワーク関係者に集まって頂き、@地域「障害者プラン」における知的障害者の就業支援施策、A地域の雇用環境や雇用状況、B労働局および県労働部局の施策と連携、C養護学校の就職状況、D福祉施設からの就職状況、E公共職業安定所における知的障害者の就労状況・支援状況、F離職知的障害者に対する支援策、G既存機関間の連携や活動状況、H事業主団体の活動・雇用状況・事業主からの提言、I地域育成会における就労支援の取り組みや保護者からの提言、J「就労支援ネットワーク」の所在や必要性、などについて忌憚のない討議の場をもってきた。また、第二日目の「知的障害者職業自立啓発セミナー」は、およそ200名を対象に、@基調講演(労働省・全日本手をつなぐ育成会など)、A当該地域における雇用トレンドと知的障害者の就労実態(地域労働局・公共職業安定所など)、B働いている当事者からの発言、Cシンポジウム、としている。 このセミナーのいいところは、熱心な支援者や行政担当者に出会えることで、「障害者緊急雇用安定プロジェクト」で健闘されている地域をみると必ずこのような方々のお名前やネットワークの方々のお顔が浮ぶ。地域格差ではなく、歴然とした意識格差の現れである。 | |
| おわりに | |
| 「社会福祉法」の制定によって、「身体障害者福祉法」「知的障害者福祉法」「精神保健および精神障害者福祉に関する法律」が改訂されたが、それぞれの総則において「自立と社会経済活動への参加の促進」がうたわれている。本当にこれを実現するためには、たとえば省名を「社会福祉省」にして国民の福祉に関する責務を担うことを鮮明にし、旧省庁間の融合のために公共職業安定所と福祉事務所を統合し、地域福祉を推進するという視点から各地の更生相談所においても職業カウンセリングや職業評価を行い、労働サイドの障害者能力開発施設を社会福祉法において位置づけるとともに授産施設を障害者能力開発施設として再編するなどの施策が必要であろう。また、最終的には包摂社会(inclusive
society)を展望してイギリスで実施されている支援雇用制度(suported placement
scheme)を立ち上げて所得保障施策と就労支援施策を一体的に提供する就労支援策を講ずることも必要であろう。 省庁再編の実効性は、2002年度の施策や予算編成において実感することになろう。 | |
| (全日本手をつなぐ育成会理事 就労支援専門委員長/厚生労働省「就業・生活総合支援事業」検討委 員/小委員会委員長/日経連・緊急雇用安定プロジェクトコーディネーター/NPO法人
大阪障害者雇 用支援ネ
ットワーク代表理事/全国障害者就業支援ネットワーク事務局長) | |